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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)4278号 判決

原告 東京自動車販売株式会社

被告 朱福来 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

(一)  別紙目録〈省略〉記載の建物は、原告の所有であることを確認する。

(二)  被告協同組合日本華僑経済合作社は、原告に対し、別紙目録記載の建物につき昭和二七年一二月八日東京法務局芝出張所受附第一〇二五五号同年一二月四日付根抵当権設定契約により協同組合日本華僑経済合作社のため債権極度額三〇〇万円、契約期間昭和二九年一二月三日迄・利息日歩一二銭の特約・債務不履行の時は期限の利益を失い、期限後は一〇〇円につき一日二〇銭の割合による延滞利息を支払うことの根抵当権設定契約を登記する債務者の表示揚礼恭なる旨の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  被告朱福来は、原告に対し、別紙目録記載の建物につき、昭和二八年三月三〇日東京法務局芝出張所受附第二七六七号、昭和二七年一二月二七日付金員貸借契約に基く昭和二八年三月二七日抵当権設定契約により朱福来のため債権額九五万円・弁済期昭和二八年四月二〇日・特約期限後は一〇〇円につき一日二〇銭の割合による損害金を支払うことの抵当権設定を登記する旨の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(四)  訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、

請求原因として、

(一)  別紙目録記載の建物(以下「本件建物」と称する。)は、原告が昭和二七年七月中建築して所有するにいたり、同月九日その所有権保存登記を経由した。

(二)  本件建物には請求の趣旨(二)記載の抵当権設定登記が経由されているが、原告が被告協同組合日本華僑経済合作社のためかかる抵当権を設定した事実なく、右の登記は原告の与り知らないもので無効であるから、被告組合に対しその抹消登記手続を求める。

(三)  被告朱福来は、昭和二七年一一月一五日以来現在まで引続き原告会社の取締役であるが、昭和二七年一二月二七日金員貸借契約により原告に対して九五万円の債権を取得したとして、昭和二八年三月三〇日本件建物に請求の趣旨(三)記載の抵当権設定登記をなした。しかし、原告は、同被告との間に右の消費貸借契約を締結した事実はない。仮りに、その事実があつたとしても、被告朱は、原告会社との間に右の消費貸借契約及び抵当権設定契約を締結するについて、適式に招集された取締役会の適法な議決による原告会社の承認を得ておらず、右の二の契約はいずれも無効であるから被告朱に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

と述べ、原告の主張に反する被告等の主張事実を否認した。〈立証省略〉

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、

請求原因に対する答弁及び被告等の主張として、

(一)  原告がその主張の頃本件建物を建築してこれを所有し、その主張のごとく所有権保存登記が経由されたこと、本件建物につき原告主張のごとき被告両名のための抵当権設定登記が経由されていること及び被告朱が原告会社の取締役であることは認めるが、その他の原告主張事実は否認する。

(二)  原告は、現在本件建物を所有していない。即ち、原告は昭和二八年四月一三日その訴外佐藤福鐘に対する債務につき本件建物を代物弁済に供し、その所有権を失つた。すでに本件建物について所有権を有しない原告は被告両名に対し前記抵当権設定登記の抹消登記手続を訴求するについて、権利保護の利益を欠くものというべく、本訴請求は理由がない。

(三)  仮りに(二)の主張が理由がないとしても、

(1)  訴外揚礼恭は、昭和二七年一〇月二五日原告に対して二八〇万円を貸与し、その担保として本件建物に順位第一番の抵当権の設定を受けたが、弁済期である同年一二月二三日原告が右の債務を弁済しなかつたため、やむを得ず被告組合から三〇〇万円を借受けた。その際原告は、訴外揚と協議の上、同人のための前記抵当権設定登記を抹消し、その代償として同訴外人の被告組合に対する前記債務の物上保証として、本件建物に抵当権を設定し、ここに本件係争の前記抵当権設定登記が経由されたのであり、原告は、昭和二八年三月二七日訴外揚の被告組合に対する前記債務を重畳的に引受け、前記抵当権の設定についても再確認しているのであつて、その抹消登記手続を請求する原告の被告組合に対する訴は理由がない。

(2)  被告朱は、原告に対し、昭和二七年一〇月二五日原告会社の本店において代金七〇万円にて自動車一台を売却し、さらに、同日同所において、現金二〇万円を、また同月三一日及び同年一二月一七日それぞれ現金一〇万円を貸与したが、昭和二八年三月五日これらの代金債権及び貸金債権につき、その支払のため原告から九五万円の約束手形一通の交付を受け、さらに同月二七日原告と協議の上九五万円の債権の存在を確認して金銭消費貸借契約書を作成し、その担保として同月三〇日本件建物に抵当権を設定し、その登記として経由されたのが、原告が被告朱に対して抹消を請求している前記抵当権設定登記である。被告朱は、原告会社との間に右の消費貸借契約及び抵当権設定契約を締結するについては、適式に招集された原告会社の取締役会の議決を経ている。

と述べた。〈立証省略〉

理由

(一)  原告は、本件建物の所有権が自己にあることを主張し、このことの確認を請求するので、まづこの点について判断するのに、本件建物は、昭和二七年七月頃原告がこれを建築して所有するにいたつたことは、当事者間に争いのないところであるが、現在もなお原告において所有することについては、これを確認するに足る証拠がなく、かえつて成立に争いのない甲第二号証の本件建物の登記簿謄本には、本件建物は、昭和二七年七月三〇日訴外佐藤福鐘において代物弁済によりその所有権を取得し、さらに昭和二八年五月六日訴外裴明九が売買によりその所有権を取得した旨の記載があり、かつ、成立に争いのない乙第八号証には、昭和二九年四月一日原告は本件建物が右裴明九の所有であることを認める旨の記載があること等よりみて、到底本件建物が現に原告の所有であることを確認することを得ず、この点についての原告の請求はこれを認容することができない。

(二)  次に、原告の被告両名に対する抵当権設定登記の抹消登記手続の請求について判断する。

(1)  本件建物に原告主張のごとき被告両名のための抵当権設定登記が経由されていることは、当事者間に争いがない。

被告等は、原告が本件建物を現に所有せず、したがつて、被告等に対して右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することは権利保護の利益を欠き失当である旨主張するが、前記の抵当権設定登記が原告において本件建物の所有権を失つた後に経由されたものであることを理由とするのであれば格別、本件建物の現所有者でないことを理由としては直ちに原告に権利保護の利益がないとはいえないものと考える。原告は、少くとも原告が本件建物を所有していた当時に実体上の権利を伴わない前記の抵当権設定登記が経由されたとして、その抹消を被告等に請求するのであるから、原告のかかる請求には、権利保護の利益ありと解する。ゆえにその点についての被告等の主張は採用できない。

(2)  よつて、次に、被告組合のための前記抵当権設定登記が原告主張のごとく実体上の権利を伴わない無効のものであるかどうかについて検討する。成立に争いのない乙第一ないし第三号証、同第四号証の一、二に証人大久保清香、同揚礼恭の各証言並びに被告朱福来本人訊問の結果を綜合すると、(イ)原告は、訴外金井田与一郎に対し借受金二八〇万円を弁済するため、昭和二七年一〇月二五日訴外揚礼恭から二八〇万円を借受け、その担保として本件建物に順位第一番の抵当権を設定し、その登記をなしたこと、(ロ)原告が右の借受金をその弁済期である同年一二月二三日に弁済しなかつたため、揚礼恭は差迫つた必要があつてやむなく被告組合から三〇〇万円を借受け、原告会社代表取締役長南寅太郎と協議の上、揚のための前記抵当権設定契約を抹消し、これに代えて昭和二七年一二月四日揚礼恭の被告組合に対する前記債務の物上保証として、本件建物に根抵当権を設定しその登記が経由されたことを認定することができ、右の認定を覆えすに足る証拠はない。

(3)  次に、被告朱福来のための前記抵当権設定登記が原告主張のごとく無効のものであるかどうかについて検討する。

前掲乙第一、二号証、成立に争いのない乙第五号証、第六号証の一、二に、証人大久保清香、同揚礼恭の各証言並びに被告朱福来本人訊問の結果を綜合すると、(イ)被告朱福来は、昭和二七年一〇月二五日原告会社の代表取締役長南寅太郎に対し現金二〇万円を貸与し、さらに代金七〇万円にて自動車一台を売却したほか、その後も原告会社に対して現金一〇万円二口を貸与し、原被告間に右売掛代金債権及び貸金債権を目的とする準消費貸借契約が締結されたこと。(ロ)昭和二八年二月四日原告会社代表者長南は、被告朱に対して当時なお残債務九五万四〇〇〇円のあることを確認した上、これを同月二七日までに支払うことを約したこと。(ハ)同年三月二七日右の両当事者は協議の上、当時の残債務九五万円についてその弁済期を同年四月二〇日とし期限後は一〇〇円について一日二〇銭の割合による損害金を支払うこと。(二)原告は被告朱のため右の債権担保のため、本件建物に抵当権を設定する旨の契約が原被告間に締結され、右の約旨により被告朱において原告主張の抵当権設定登記を経由したことを認定することができ、右の認定に反する証人細井康子の供述部分は、前掲各証拠と対比して措信し難く、他に右の認定を左右すべき証左は存しない。

原告は、被告朱は原告会社の取締役でありながら、原各会社との間に前記の消費貸借契約及び抵当権設定契約を締結するについて適式に招集された取締役会の適法の議決による原告会社の承認を得ていないから、右の契約はともに無効である旨主張するので按ずるのに、被告朱が右の契約締結前である昭和二七年一一月一五日以来現在にいたるまで引続き原告会社の取締役であることは、同被告の認めて争わないところであるが、証人大久保清香の証言及び被告朱の供述によれば、原告会社においては、その取締役会を招集するについて、取締役全員の暗黙の同意により、法定の招集手続を省略することを慣例としており、前記認定の原告会社、被告朱間の消費貸借契約及び抵当権設定契約の締結についても、従前の例により法定の招集手締を経ずして、昭和二八年三月二七日原告会社本店において取締役会が開催され、代表取締役長南寅太郎、取締役大久保清香、同細井康子及び同朱福来即ち取締役全員がこれに参加して、全員異議なく被告朱と原告会社との前記契約の締結を承認したことが認定され、右認定に反する細井証人の証言部分は、これを措信し得ず、他に右認定を覆えすに足る証拠は存しない。してみれば、この点についての原告の主張もまた理由がない。

(三)  以上認定のごとく、被告組合及び同朱福来は、ともに原告に対して各被告の主張するごとき抵当権を有するのであるから、その存在しないことを前提とし、被告等に対し前記抵当権設定登記の抹消登記手続を請求する点においても、原告の本訴は理由がなく失当である。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 磯崎良誉)

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